(広島大学) プレスリリース
放射線治療による副作用を染色体異常数の血液検査から予測 ― 個人の放射線感受性に基づいた個別化治療の可能性 ― (動画あり)

プレスリリース

2020年3月9日(月) 広島大学 霞キャンパス   ☆動画解説:https://youtu.be/2ScIUYrm5No
 


 

【研究成果】
放射線治療による副作用を染色体異常数の血液検査から予測 ― 個人の放射線感受性に基づいた個別化治療の可能性 ―

【本研究成果のポイント】

● がん治療において、放射線治療は抗がん剤の治療や手術と並んで重要な役割を果たしています。しかし、同じ放射線治療でも、副作用が強く出る症例がある

 ことが問題となっています。

● 私たちは、放射線治療の副作用には個人の放射線感受性の違いが関係すると考え、放射線治療中の症例について末梢血リンパ球のDNA損傷と染色体異常を

 解析しました。その結果、末梢血リンパ球の染色体異常数が、副作用の予測指標となる可能性が示されました。

● 今回の研究は、個人の放射線感受性に基づいた個別化治療の確立につながることが期待されます。

【概要】

 広島大学大学院医系科学研究科放射線腫瘍学の今野伸樹医師と永田靖教授、広島大学原爆放射線医科学研究所の田代聡教授らの共同研究チームは、放射線治療により引き起こされる末梢血リンパ球中のDNA損傷と染色体異常を解析した結果、放射線治療による副作用を末梢血リンパ球の染色体異常数から予測できる可能性があることを示しました。
 放射線治療は、多くのがんにおいて標準治療の一つとして重要な役割を果たしています。その有用性が認識される一方、皮膚炎や粘膜炎、肺臓炎といった放射線治療特有の副作用が時として問題となります。放射線治療による副作用を予測するために、これまで様々な解析が行われてきました。 放射線治療の副作用は正常組織に照射される線量と体積に依存するため、照射された線量や体積の関係が、副作用の予測指標として有用とされていました。

 しかし、副作用の程度は、同程度の線量、照射体積の治療を受けた患者間でも個人差があることが知られています。このため、副作用は個人の放射線感受性の違いによるものと考えられています。したがって、放射線治療の副作用予測のために、放射線感受性の指標を確立することは極めて重要な課題となっています。しかし、これまでの技術では染色体解析は熟練した技術と時間がかかり、放射線感受性の計測を一般的な医療に導入することは困難でした。

 今回の研究では、私たちが開発した効率的に染色体異常を検出することが可能なPNA-FISH法(※1)などを用いて、放射線治療患者の治療中の末梢血リンパ球のDNA損傷および染色体異常数の変化を評価し、放射線治療による副作用の予測指標を検討しました。5~6週間の放射線治療を受けた食道がん症例18症例を対象とし、治療前、治療中から治療後半年までの期間で、一人あたり11回の血液サンプルを解析し、最適な予測指標とタイミングを検討しました。

 解析にはDNA二本鎖切断のマーカーであるγ-H2AX(※2)の免疫蛍光染色法(図1)とPNA-FISH法(図2、文献1)を用いました。その結果、副作用が発生していない放射線治療開始2週後の染色体異常数が、重症の副作用が認められた症例では認められなかった症例より多いことが明らかになり、治療開始2週後の染色体異常数が副作用の予測指標になる可能性があることが明らかになりました(図3)。

 今回の研究では、放射線治療中末梢血リンパ球で評価した個人の放射線感受性と放射線治療による副作用の関係が示されました。この研究成果は、放射線治療における副作用予測、個人の放射線感受性に基づく個別化治療の確立に繋がることが期待されます。

 この研究成果は、2021年3月発行の米国放射線生物学専門誌「Radiation Research」(VOL.195・NO.3)に掲載されました。

    (図1) DNA二本鎖切断のマーカーであるγ-H2AXの免疫蛍光染色法

          左: 放射線治療前 右: 放射線治療後

 

    

(図2) 染色体異常を検出することが可能なPNA-FISH法

 

(図3) 放射線治療の副作用と染色体異常数の関係

 

【補足説明】
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(※1) PNA-FISH法
 PNA (Peptidic Nucleic acid) プローブを用いたFISH (Fluorescence in situ Hybridization) 法により、染色体を解析する技術。染色体の中央部セントロメアと末端テロメアを蛍光色素で可視化することにより、放射線被ばくによる二動原体染色体や環状染色体などの染色体異常を効率的に検出することが可能となった。

 

(※2) γ-H2AX
 放射線により二本鎖DNAが切断された場所では、ヒストンH2AXがリン酸化(γ-H2AX)される。顕微鏡では、γ-H2AXが細胞核の中で点状のフォーカスとして検出される。1つのフォーカスにDNA二本鎖切断が1箇所含まれている。

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【論文情報】

掲載論文:Radiation Research」(VOL.195・NO.3)

論文タイトル:Evaluating individual radiosensitivity for the prediction of acute toxicities of chemoradiotherapy in esophageal cancer patients
著者名:Nobuki Imano,a, b Ikuno Nishibuchi,b Emi Kawabata,a Yasuha Kinugasa,a Lin Shi,c Chiemi Sakai,d Mari Ishida,d Hiroaki Sakane,e Tomoyuki Akita,f

    Takafumi Ishida,g Tomoki Kimura,b Yuji Murakami,b Kimio Tanaka,a Yasunori Horikoshi,a Jiying Sun,a Yasushi Nagata,b Satoshi Tashiro,a,1

     a, 広島大学・原爆放射線医科学研究所・細胞修復制御研究分野
     b, 広島大学大学院医系科学研究科・放射線腫瘍学
     c, 徐州医科大学 放射線診断学
     d, 広島大学大学院医系科学研究科・心臓血管生理医学
     e, 広島大学大学院医系科学研究科・放射線診断学
     f, 広島大学大学院医系科学研究科・衛生学
     g, 福島県立医科大学・循環器内科学
     1, 責任著者

 

【参考文献】

 1) A Modified System for Analyzing Ionizing Radiation-Induced ChromosomeAbnormalities. Shi L, Tashiro S, et al. Radiat Res. 2012 May;177(5):533-8.

 

【お問い合わせ先】

 広島大学 原爆放射線医科学研究所 細胞修復制御研究分野
 教授 田代 聡
 TEL: 082-257-5818
 E-mail: ktashiro@hiroshima-u.ac.jp