概要 概要

拠点本部長ごあいさつ

 原子力・放射線災害への的確な対応を行い福島の復興に貢献するためには、基礎研究から臨床研究までを包括した学術基盤の確立が必要です。このために、原爆被爆者の医療、原爆症解明のため60年前に設立された広島大学原爆放射線医科学研究所(広島大原医研)と長崎大学原爆後障害研究所(長崎大原研)は、福島第一原発事故被災地域をフィールドとしている福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター(福島医大ふくしまセンター)とともに、2016年度にネットワーク型共同利用・共同研究拠点「放射線災害・医科学研究拠点」を構築しました。広島大学原医研は基礎生物・医学研究を、長崎大学原研はチェルノブイリ、セミパラチンスクでのフィールドワークや国際共同研究を強みとしており、医療産業振興を図る福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センターとの連携を強化することで、世界に類を見ない総合的な放射線災害医療研究の拠点構築を進めてきました。

 2022年度から「放射線災害・医科学研究拠点」は、新たに共同利用・共同研究拠点「拠点ネットワーク」として活動することとなりました。これまでの拠点活動をさらに活性化するために、放射線災害・医科学研究でこれまでに得られた知見・技術を、病院での放射線診断、放射線治療の妥当性、効果予測、副作用予測などに応用する「医療放射線研究」に取り組むこととしました。この医療放射線研究を推進するために、広島大原医研は広島大学病院、広島大学大学院医系科学研究科の放射線診断医、放射線治療医、放射線物理士など医療放射線の専門家が参加する部局横断型の新しい組織である「放射線災害・医科学研究機構」を設置しました。さらに、近年の困難な世界情勢に鑑み、拠点全体として核兵器の使用などに対応するための「緊急被ばく医療開発」について喫緊の課題として取り組む必要があると考えています
 拠点では、これまで拠点の研究資産、研究手法を国内外の研究者に提供する共同利用・共同研究を1,300件以上サポートしてきました。また、3拠点研究所間での連携研究を推進するトライアングルプロジェクトでも実績を積み重ねています。これらの拠点活動を中心に、国内外の関連分野の研究の活性化、人材交流、若手育成に引き続き努めてまいります。
 拠点活動へのご支援をいただけますよう、よろしくお願いいたします。

広島大学 原爆放射線医科学研究所 所長 田代 聡

放射線災害・医科学研究拠点 本部長
広島大学 原爆放射線医科学研究所 所長
田代 聡

放射線災害・医科学研究拠点の概要

 放射線災害・医科学研究領域に求められる学術は、基礎生物学、臨床医学、疫学や社会医学など広範におよぶことから、多彩な能力をもつ人材の分野横断型の研究推進が必要となります。本拠点では、わが国における放射線医科学・放射線生物学研究者の叡智を結集して『放射線災害・医科学研究』の学術拠点の形成を目的としています。
 今日、放射線による人体への影響の解明は重要な課題となっております。特に、低線量放射線の健康影響は、疫学研究や動物実験からの明確な回答はなく、科学的証拠に立脚した新しいブレイクスルーを生み出すためには、最先端の基礎生物学との融合による総合的・体系的研究の実施が必要不可欠です。さらに、放射線災害医療では、生物学的アプローチのみならず、リスクコミュニケーション、精神医学、社会学など様々な関連分野の研究者の連携が必要です。そこで本拠点では、広島大学原爆放射線医科学研究所、長崎大学原爆後障害医療研究所と福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センターの放射線リスクを理解した先端の基礎生物研究者や基礎生物学を理解したフィールド研究者らがトライアングル型ネットワークを構築し、放射線災害地域のニーズを念頭においた上で、領域横断的研究の拠点形成を目指します。各研究機関が連携して研究資産・研究手法を全国の研究者に提供することで、先端的かつ学際融合的な共同利用・共同研究と、人材育成、拠点内外の人材交流を促進し、最新の優れた成果の国民への還元と国際社会への発信を行います。このような活動を通して、本拠点を原子力災害からの復興を総合的に取り扱う新しい学問領域の礎にしたいと考えております。

各拠点の強みを生かした連携

各拠点機関の概要

広島大学 原爆放射線医科学研究所

 広島大学原爆放射線医科学研究所(原医研)は、原爆や放射線が人体に及ぼす影響の解明と、放射線が引き起こす疾病の予防法や治療法の開発を目的として、昭和36年に設置されました。放射線が引き起こすゲノム損傷は、急性の障害、並びにがんや白血病など晩発性の障害の原因となります。本研究所では、放射線がゲノムDNAを損傷するメカニズムの解明、ゲノム損傷が発がんにつながる分子機序の解明、がんの新しい治療法の開発と臨床展開、急性放射線障害に対する再生医学的治療法の開発を目的とした研究を行っています。また、原爆被爆者データベースを整備して、ゲノム障害情報の解析に基づく疫学的研究を進め、個々人の低線量放射線影響を的確に把握できるリスク評価法の確立を目指すなど、「放射線障害の研究と治療の世界的拠点」として活動しています。
 福島原発事故に対しては、広島大学が国から西日本ブロックの3次被ばく医療機関に指定されていたことから、大学病院、緊急被ばく医療推進センターと連携して、医師、看護師、放射線技師などから構成される緊急被ばく医療派遣チームを派遣しました。さらに、事故後の大きな課題となった低線量放射線の健康影響についての研究に取り組むために「低線量放射線影響先端研究プログラム」を開始し、施設整備など研究体制の強化に取り組みました。低線量放射線の健康影響に対する学術的な回答を得るには、低線量放射線による細胞の小さな損傷や、生物の反応を知ることが重要です。このため原医研では、低線量率放射線の持続被曝による細胞の応答や損傷の解析などに力点を置いて、分子・細胞・臓器・動物個体レベルの研究に最新の先端的研究手法と実験ノウハウをと組み合わせることで、低線量放射線の健康影響の解明に取り組んでいます。
 原医研は、平成22年度から文部科学省の全国共同利用・共同研究拠点「放射線影響・医科学研究拠点」に選定され、50課題の福島原発事故対応緊急プロジェクト研究課題を含む全国の放射線研究者との共同研究を通じて、先進的研究施設・サービスの提供を行い、全国の放射線影響研究者とともに低線量放射線影響研究を含めた福島復興の学術基盤を支援してきました。このような共同利用・共同研究拠点としての活動実績を基盤として、平成28年度から、長崎大学原爆後障害医療研究所及び福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センターと共に本ネットワーク型共同利用・共同研究拠点「放射線災害・医科学研究拠点」を展開しています。
 本拠点の理念である「放射線災害・医科学」への貢献を実現するには、長期間にわたる若手研究者の育成が重要です。原医研は、広島大学博士課程教育リーディングプログラム「放射線災害復興を推進するフェニックスリーダー育成プログラム」に取り組み、次世代の放射線災害・医科学研究領域のための人材育成を進めています。このプログラムでは、長崎大、福島県立医科大学の協力を得てフィールド調査教育も行っています。三大学がそれぞれに持つ教育資産の共有を若い学生にとって魅力的な取り組みとすることで、フェニックスリーダー育成プログラムとともに本拠点を基礎とした新しいポスドク・若手研究者のネットワークを構築し、「放射線災害・医科学」領域の研究をオールジャパン体制で推進するためのプラットフォームを提供します。
 

 また令和4年度からは、基礎研究・橋渡し研究・臨床研究に対応する3大部⾨「放射線影響評価部⾨・放射線医学研究部⾨・放射線災害医療研究部⾨」に改組・再編成し、さらに部門を横断し、部局・大学の枠を越えて研究者が参画する新たな組織として「放射線災害・医科学研究機構」を設置しました。
 この機構には、拠点ネットワーク「放射線災害・医科学研究拠点」の研究者とともに広島大学病院、大学院医系科学研究科の放射線診断・治療研究医が参画します。そしてこれまでの研究で得られた知見や技術を病院での放射線診断、放射線治療の妥当性、効果予測、副作用予測などの医療放射線研究に応用することで新しい医療開発に取り組み、その成果を放射線災害・医科学研究に還元することを目的とします。

主な研究資産・研究機器

 原医研では、低線量率放射線精密照射、大量ゲノム・エピゲノム解析 (次世代シークエンサー)、遺伝子改変マウス作成や最新のハイスループット画像解析装置など、最先端の放射線医科学研究に必要な研究手法・機器利用についてのサービスを提供します。このようなサービスでは、単に機器利用だけでなく、専任教員と専属技術職員により、きめ細やかな技術指導を行います。
 また、原爆関連研究資産としては、非常に貴重な被爆者病理学試料や原爆被爆者データベース(ABS)、米国陸軍病理学研究所(AFIP)より返還された病理標本や医学記録を含む原爆・被ばく資料などを提供します。

各拠点の強みを生かした連携

長崎大学 原爆後障害医療研究所

 長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設(原研)は原爆被爆者の後障害の治療並びに発症予防、及び放射線の人体への影響に関する総合的基礎研究を目的として、1962年に設置されました。以後、長崎における原爆後障害研究は勿論のこと、1990年代からはチェルノブイリ原子力発電所事故・カザフスタン核実験場での放射線被ばく者への医療支援、放射線影響分子疫学研究、2011年からは福島原子力発電所対応に活動の場を広げています。2013年には社会の要請に沿った研究教育活動に専念するため「長崎大学附置原爆後障害医療研究所」へと改組しました。
 現在、本研究所はミッションを「国内外の大学・研究機関との連携の下、放射線健康リスク管理学を中心とした被ばく医療学を推進し、人類の安全・安心を担う専門家を輩出する」と再定義して研究を展開しています。分子レベルでの放射線障害の研究・ゲノムを指標とした個体・細胞レベルでの放射線発がんの研究・ヒト試料及びモデル動物を利用した甲状腺がん研究等を展開しながら、これらの基礎研究を土台として、疫学的研究、放射線ヒバクシャの国際的調査や医療協力等幅広い研究を取り入れ、基礎研究から社会医学までの様々な階層レベルの研究を網羅した特徴ある研究所として存立しています。さらに長年にわたる長崎被爆者情報の保存保管、近年の被爆者がん組織のバンク化と病理・被爆情報のリンク等、原爆後障害医療の情報センター的性格も併せもっています。
 原研は、現在以下の4部門、センターからなります。

(1)放射線リスク制御部門:
 放射線の人体影響研究を推進すると同時に、国際及び地域における臨床疫学、分子疫学調査を推進し、リスク評価とリスクコミュニュケーションを教育研究の柱とする部門です。さらに病院機能と連携すると共に国内外の関連機関との協調の中で放射線災害医療及び救済医療に資する教育研究プログラムを、社会医学ならびに分子生物学的アプローチによるがん・非がん疾患領域の健康科学・生命科学を推進しています。
 放射線災害医療学研究分野、国際保健医療福祉学研究分野、放射線生物・防護学研究分野、放射線分子疫学研究分野の4分野を組織しています。

(2)細胞機能解析部門:
 細胞レベルで放射線生物影響を解析し、特に幹細胞(がん幹細胞を含む)や組織恒常性維持の視点から、放射線による悪性腫瘍を含む種々の疾患の発症機序の解明と新たな治療法の開発を目指す部門です。幹細胞生物学研究分野、分子医学研究分野の2分野を組織しています。

(3)ゲノム機能解析部門:
 ゲノムDNAの変化に焦点をあて、ゲノム変異過程の研究、ゲノム修復過程の研究、ゲノム異常によってもたらされる遺伝子疾患の研究を進める部門です。人類遺伝学研究分野、ゲノム修復学研究分野の2分野を組織しています。

(4)原爆・ヒバクシャ医療部門:
 原爆被爆をはじめとして放射線被ばくによって生ずる身体異常、疾患に対する医療を幅広く実施するとともに、放射線の人体影響を研究する部門です。血液内科学研究分野、腫瘍・診断病理学研究分野、アイソトープ診断治療学研究分野の3分野を組織しています。

(5)放射線・環境健康影響共同研究推進センター:
 放射線健康リスク制御国際戦略拠点プログラムの推進、福島県川内村との包括連携に関する協定書に基づく連携事項の推進を活動の柱とするセンターです。共同研究推進部、資料収集保存・解析部(資料調査室、生体材料保存室)、チェルノブイリ分子疫学調査研究プロジェクト拠点(ベラルーシ拠点)、長崎大学・川内村/富岡町/大熊町/双葉町復興推進拠点を組織しています。

 

主な研究資産・研究機器

 長崎大原研では、最新の研究手法に堪え得る被ばく関連資料やサンプル、国内外の放射線災害地域での活動を通じて培われた地元関係者とのネットワーク、チェルノブイリ分子疫学調査研究プロジェクト拠点、長崎大学・川内村復興推進拠点等、国際的に高い評価を得ているフィールドワークに必須な資産を提供します。
 生物・医学研究用の施設として、X線照射装置、ゲノム解析システム、放射能測定機器(生体用ホールボディカウンタ、ゲルマニウム半導体放射線検出器)、分子イメージング装置(小動物用PET/SPECT/CT)等を提供します。

各拠点の強みを生かした連携

福島県立医科大学 ふくしま国際医療科学センター

 福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センターは、東日本大震災とそれに伴う東京連力福島第一原子力発電所事故からの復興に向けた医療の拠点として、2012年11月に設立されました。本センターは、県民健康調査の着実な実施、最先端の医療設備と治療体制の構築、医療関連産業の振興等により、地域社会を再生・活性化し、その復興の姿を全世界に向けて発信するとともに、世界に貢献する医療人の育成等においても主導的役割を担います。
 なお、本センターの主な組織は以下のとおりです。

1.放射線医学県民健康管理センター
 福島県より、以下を目的とする「県民健康調査」の委託を受け、県民の健康を見守る同調査の運営組織として、2011年9月に設置されました。
(県民健康調査の目的)
 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ること。
 県民健康調査は、空間線量が最も高かった時期における放射線による外部被ばく線量を推計する「基本調査」と、詳細調査と位置づけている4調査「健康診査」「甲状腺検査」「こころの健康度・生活習慣に関する調査」「妊産婦に関する調査」の計5調査を実施しています。

2.先端臨床研究センター
 最先端の医療機器による画像診断により、各種疾病の早期診断等を実施するための拠点として設置されました。
 また、薬剤の製造・合成から非臨床試験および臨床研究・治験までが一気通貫で実施可能な環境を整備することで医療・研究水準の向上を図るとともに、放射線医学総合研究所との連携による環境中放射性物質の調査・解析に取り組んでいきます。
 なお、これらの取組を効果的に展開するため、センター内に基盤研究部門、受託研究部門、PET検査部門、臨床研究・治験部門、環境動態調査部門の5部門を組織し、部門間の強固な連携の下、県民の皆様の将来にわたる健康維持・増進に貢献しています。

 

 

主な研究資産・研究機器

 ふくしま国際医療科学センターでは、県民健康調査関連フィールドに加え、サイクロトロン関連設備の提供を行っています。がんの先端的な診断および治療に用いられるRIトレーサーの研究を、PET/CT、PET/MRI等国内随一の設備と専任職員によるノウハウ提供を含めて利用が可能です。

各拠点の強みを生かした連携